通過点、きみのはなし あなたのはなし

シナリオリプレイログ

⚠️このページには、以下の作品のネタバレが含まれます⚠️

通過点、きみのはなし あなたのはなし

我々は厄介事に愛されている

VOID

ガタン、ゴトン


ガタン、ゴトン


電車が揺れる感覚で目を覚まします。

探索者は、電車の座席に座って寝てしまっていたようです。

ここはボックス席。

正面には、自分の他にもう一人が座っています。


それは見知らぬ人でしょうか。

それとも、知っている人でしょうか。

どちらにしろ、目の前の人間も、今どうしてここに居るのか理解出来ていない顔をしています。


窓の外を見ると、どんよりとした曇り空の下。これまたどんよりとした海が、窓のすぐそばで広がっています。

八雲

「……おやぁ? これはこれは……」

那久

「んな……どこだ、ここは。誰だお前は???」

八雲

「俺ですか? 俺は我妻八雲といいます。刑事さんですよ~」

那久

「刑事……? 奇遇だな、俺もだが……」

八雲

「おや、そうでしたか。それは本当に奇遇ですねぇ~。お名前は伺っても?」

那久

「…………那久」

八雲

「那久さんですか。可愛らしい名前ですねぇ。よろしくお願いします~」

那久

「よろしく……って、そうじゃなくて、ここは一体どこなんだ!?」

八雲

「え? さあ……どこなんでしょうねぇ」

どうしてここに居るのか、ここはどこなのか。二人は思考を巡らせます。

八雲

CCB<=75 アイデア (1D100<=75) > 90 > 失敗

那久

CCB<=90 アイデア (1D100<=90) > 80 > 成功

成功をした探索者は、自分が直前まで自室で寝ていたことを思い出します。電車などに乗った記憶はありません。

失敗した探索者がいるのであれば、「よく覚えていないが、疲れていたために電車で寝落ちてしまったのだろうか」と思うことでしょう。

どちらにしろ、車内の光景、そして外に見える光景に見覚えはありません。

那久

「ん……!? いや、そうだ……確か俺は、自分の部屋で寝ていた筈……こんなところに居るわけがない!!」

八雲

「おや……そうなのですか? それは不思議なことですねぇ……」

那久

「お前はどうなんだ、覚えは無いのか???」

八雲

「う~ん……? いやぁ、俺はよく覚えていないんですけど……少なくとも、こんな車両に乗っていた覚えは無いですねぇ……」

那久

「そうか……。一体どこを走ってるんだ、ここは……。降りられるのか……?」

二人が向き合っていると、突然、アナウンスが車内に響き渡ります。


「ご乗車、ありがとうございます。

 この電車は現在、世界線の狭間を走行中です。走行中、電車が大きく揺れることもございます。

 出来るだけ立ち上がらずに、お席に座っておくつろぎください。

 また、乗換駅までもう少しお時間がかかります。『袖振り合うも他生の縁』とも言いますが。どうぞ、この奇跡のような出会いを大切に。

 心ゆくまで、素敵な旅をお楽しみください。」


若い男性のようにも、年老いた女性のようにも聞こえる不思議な声。

そこまで告げると、アナウンスはまた静かになってしまいました。

辺りには、電車の走る音と、微かに聞こえてくる波の音だけが響いています。

八雲

「ほう……? 座っていろと言われてしまいましたねぇ」

那久

「む……言うことを聞く道理など無いが……どのみち、走行中では降りるも何も無いからな……」

八雲

「そうですよぉ、大人しくしておきましょう♪」

那久

「お前は……どうしてそんなに落ち着いているんだ……」

八雲

「騒いだってどうしようもないじゃないですか~」

那久

「……一理はあるんだが、なんか癪だな……」

八雲

「それにしても……聞き慣れない言葉がありましたね。『世界線の狭間』ですか……どういうことなんでしょう?」

那久

「俺が知るか」

八雲

「おや……ふふふ、失礼しました。そうですよね。俺にもさっぱりです」

辺りには、二人の他に誰もいないようです。窓の外には、相変わらず灰色の海と空が流れています。


探索者たちは窓の外を眺めます。


窓の外には、相変わらずどんよりとした空と海が広がっています。

くすんだ雲の灰色と、よどんだ海の灰色が、混ざり、溶けて。

空と海の境目すらも分からずに、物悲しさが窓の外でくすぶっています。


それでも、確かに白波は立ち、雲の隙間からは光が覗いています。

その光景に、探索者は寂しさを覚えるでしょうか。

それとも、温かさを覚えるのでしょうか。

那久

「……あまり綺麗な風景とは言えないな」

八雲

「曇天はお嫌いですか?」

那久

「好きではない。嫌いってほどでもないが……晴れているほうが、そりゃあ嬉しいだろう」

八雲

「そうですか。俺は過ごしやすくて好きですけどね。陽の光は、俺には眩しすぎます」

那久

……

CCB<=90 アイデア (1D100<=90) > 78 > 成功

那久

「もしかして、そのサングラスって……」

八雲

「……まあ、少し。いや、大分ですかね……。俺はこれが無いと、生活もままなりません」

那久

「治療法は無いのか?」

八雲

「頑張れば何かしらはあると思いますけど……そこまでするお金もありませんしねぇ。俺はこれで充分です」

那久

「……そうか……」

窓の外には、相変わらず灰色の海と空が流れています。


少し腰を浮かせて、自身の周りを見渡してみます。

探索者は着慣れた私服を着ています。

財布や携帯電話などの貴重品は持っていますが、それ以外の手荷物は一切無いようです。


また、携帯電話は圏外になっており、何を調べることも出来ないようです。

那久

「……ふう……連絡すら出来ないか」

八雲

「何か心配なことでも?」

那久

「何かって……お前は、誰かに連絡したいとか無いのか」

八雲

「誰かに連絡、ですか。……生憎、特には無いですね」

那久

「刑事なんだろ? 相棒とか、居るんじゃないのか?」

八雲

「ああ、居ますよ。でも……。……」

那久

「でも、なんだ。連絡したくない理由でもあるのか?」

八雲

「いいえ、そういうのはありませんが……連絡をする理由も、ありません」

那久

「あるだろ!!! 異常な事態を報告するとか、助けを求めるとか……しないのか???」

八雲

「ん~……まあ、そうですね。言われてみれば、したほうがいいですか……」

那久

「そ、そうだぞ。なんだお前、相棒を頼れないのか?」

八雲

「いいえ、そういうわけではないんですけど……仕事以外で関わりを持つというイメージが、どうにも無かったもので」

那久

「ん……ああ、そうか……。たしかに、仕事だけの仲であれば、連絡はし辛いか……そこは考慮できていなかった、すまない」

八雲

「いいえ~、いいんですよ。那久さんは、相棒と仲が良いんですねぇ」

那久

「ああ、まあ……同僚じゃなくて友達みたいな感じっていうか……もともと幼馴染、だからな」

八雲

「幼馴染で相棒ですか。それはすごいですねぇ」

那久

「だろ? まあ、もうちょっと色々ありはするんだが……なんにせよ、大切な親友で相棒だ」

八雲

「そうですかそうですか、いいですねぇ……」

那久

「お前は……」

CCB<=90 アイデア(事情を察することが出来るかどうか) (1D100<=90) > 91 > 失敗

那久

「お前は、親友とか友達とか、居ないのか?」

八雲

「え~? 居ませんよぉ?」

那久

「そうか……。……家族は?」

八雲

「それも居ません。天涯孤独です~」

那久

「そうなのか……すまん、不躾だったな」

八雲

「気にしないでください。俺にとってはこれが普通ですし、なんてことはないですよ~」

那久

「そうか……それならいいんだが」

さらにポケットをまさぐっていた探索者はあることに気が付きます。

ポケットに何かが入っています。

取り出してみると、それは小さな紙切れでした。掌に簡単に収まってしまう小さな長方形の紙片。

それが二人のポケットの中に一枚ずつ入っています。


どうやら、これは切符であるようです。

しかし、おかしなところがあります。


中心には右向きの矢印が書かれていて、その左側には「狭間」と書かれています。

しかし、矢印の向く先、右側には何も書かれていません。

寂しい空白が、ただそこにあるだけです。


行先が書かれていない切符。

一体、この電車はどこに向かっているのでしょうか。

那久

「ん……? なんだこれ。ポケットの中に何か……切符?」

八雲

「おや……俺のところにもありましたよ。狭間から……何行きでしょうか?」

那久

「何も書いてないな……一応、失くさないようにしておいたほうがいいか」

八雲

「そうですね~、降りられなくなってしまっては困りますし。大事にしておきましょ~」

窓の外には、相変わらず灰色の海と空が流れています。

また、探索者たちの近く、座席の上に風呂敷に包まれた四角いものがあることが分かります。


きみの隣の座席の上。

誰も座っていない席の上にぽつんと置かれた荷物です。大きさは菓子折りぐらいのサイズでしょうか。

風呂敷の傍には、万年筆とメモが添えるように置いてあります。

八雲

「ところで、先程から気になっていたのですが……これ、なんでしょうか?」

那久

「お前のものではないのか」

八雲

「いいえ~、知らないですよぉ。でも、隣に置かれてるってことは、開けてもいいんでしょうかねぇ」

那久

「まあ……いいんじゃないか?」

八雲

えいっ

風呂敷を広げると、中からは一枚の絵が出てきました。

しかし、それは絵の具や水彩で描かれたものではありませんでした。

布や綿、厚紙を組み合わせて立体的に作られたそれは、押絵です。


二人は押絵を見たことがあるでしょうか?

羽子板に書かれた女性なら、見たことがあるかもしれません。


ただ、ここに描かれているのは美しい着物を身に纏った女性ではありません。

押絵には列車の座席が描かれていました。

列車の座席に座った男性が無表情でじっとこちらを見ている絵です。


それはあまりに緻密で、あまりにリアルな押絵でした。

今にも列車が動き出しそうな。

今にも男性がこちらに語り掛けてきそうな。そんな気さえします。

八雲

「わぁ」

那久

「どうした? 何が入っていたんだ?」

八雲

CCB<=105 知識(押絵を知っているかどうか) (1D100<=105) > 7 > スペシャル

八雲

「これは……押絵ですね。男性がこちらを見ているもので、少し驚いてしまいました。見ますか?」

那久

「ああ、見る」

八雲

「どうぞ」

那久

「……たしかにこれは、少し驚くな。なんで無表情なんだ……」

ガタン、ゴトン


ガタン、ゴトン


電車の音がします。

手の中の押絵が揺れます。

まるで押絵の中で列車が揺れるように。


目が、奪われます。

八雲

CCB<=50 目星 (1D100<=50) > 2 > 決定的成功/スペシャル

那久

CCB<=80 目星 (1D100<=80) > 99 > 致命的失敗

押絵の男が、





     確かに、




        小さく微笑みました。

八雲

「あっ」

はっ、と意識を取り戻します。

目の前にあるのは押絵で、それ以上でもそれ以下でもありません。

押絵の男は、先程と同じ表情で正面を見つめています。


そのはずです。

きっと、気のせいなのでしょう。

それでも、どうにもその男が生きているような気がして仕方がなくなってしまったのです。

八雲

1D100<=81 正気度ロール (1D100<=81) > 57 > 成功 減少なし

那久

「な、なんだ?」

八雲

「今、笑いましたよ、この人」

那久

「何を言っているんだ。絵が笑うわけないだろ」

八雲

「えぇ? でも、今確かに……気のせいじゃないと思うんですけどぉ……。うーん……やっぱり気のせいなんですかねぇ……」

那久

「なんだ、疲れてるのか?」

八雲

「う~ん……そうかもですねぇ」

那久

「それなら寝ててもらっても構わないが……何か変わったことがあったら起こすぞ」

八雲

「いえ~、別に眠くはないので……お気遣いありがとうございます~」

那久

「む、そうか……」

ふと、押絵から目を逸らした先。

一枚の紙が落ちています。


どうやら風呂敷に包まれて、押絵と共に入っていたようです。

拾い上げてみると、このような文章が書いてありました。


「この電車はどこに向かうのでしょうか。

 それはきっと、きみの向かう場所。

 それはきっと、あなたの帰る場所。」

八雲

「おや、もう一枚紙が……」

那久

「ふむ……なんだ、ポエムか?」

八雲

「ポエムですねぇ。向かう場所に帰る場所ですか」

那久

「さっさと帰してほしいものだがな」

八雲

「そうですねぇ。帰れないと困ります」

窓の外には、相変わらず灰色の海と空が流れています。

那久

しかし、何も起こらないな……ちょっと、あたりの様子を見てくる

八雲

そうですか。お気をつけて~

別の車両へ行こうと、隣に続く扉に手をかけます。しかし、扉はびくともしません。


まるで溶接されているかのように。

どんなに力を込めても、開くことはないようです。

那久

「む……! 開かない……閉じ込められている」

八雲

「おやおや……反対側も同じですかね?」

那久

う~む、そのようだな……

どのぐらい時間が経ったでしょうか。

二人の声と電車の走行音しかしなかった車両内に、再びアナウンスが鳴り響きます。


「ご乗車、ありがとうございます。この電車は、まもなく海の中へと進みます。

 電車が大きく揺れることもございます。

 お立ちの方はお近くの、手すり、吊革にお掴まりください」


アナウンスはそれだけ告げて黙り込みます。辺りにはまた、電車の走行音だけが響きます。

那久

「は? 海の中??」

八雲

「おや……早く座ったほうが良さそうですよ」

那久

「わ、わかっている!!」

その時、突然、車両が大きく揺れました。


何事かと外を見ると、外の様子が一変しています。


泡、泡、泡。


白立つ泡で、窓の外が真っ白に染め上がります。

しかし、それもすぐに落ち着きます。

白波の幕が上がった時、目の前に広がっていたのは、何処までも深い青でした。


海です。何処までも続く海中が、窓の外に広がっています。

色鮮やかな小魚がまるで挨拶をするように跳ね、大きな魚が電車に並走するように泳いでいます。

八雲

1D100<=81 正気度ロール (1D100<=81) > 4 > 成功 減少なし

那久

1D100<=62 正気度ロール (1D100<=62) > 52 > 成功 減少なし

那久

「えぇ……!?」

八雲

「お~、すごいですねぇ……豪華な海中トンネルですよ」

那久

「海中トンネルって……それどころじゃないだろ。どうなってるんだ……」

八雲

「きれいですね」

那久

「ま、まあ……綺麗ではあると思うが……。写真とかは撮れるだろうか……」

CCB<=10 写真術 (1D100<=10) > 43 > 失敗

那久

「う、動いてるから難しいな……」

八雲

…………

那久

「……どうした?」

八雲

「……いえ。このような光景を見るのは初めてなので……見惚れていました」

那久

「そ、そうか。俺もこんな、ここまで海の中って感じの光景を実際に見るのは初めてだが……」

八雲

「きれいですね」

那久

「それは、さっきも……。……まあ、そうだな……」

電車は外の景色などお構いなしに進み続けます。

浅い海なのでしょうか。

窓のすぐ近くでは色とりどりの珊瑚が、鮮やかな花のように咲き乱れています。


水面は電車から少しだけ上。

空から差し込んだ光が水面を通過して、ゆらゆら、ゆらゆらと海底を照らします。

カーテンを透かしたような光の屈折が、柔らかく探索者たちの足元を揺らしました。


そんな光を浴びながら。

魚たちは空を泳ぐように悠々と。

電車から少し離れたところを緩やかに泳いでいます。

那久

「……」

八雲

「…………」

那久

「………………(先程までとは打って変わって静かになってしまったな……邪魔しないほうがいいだろうか……?)」

水面からの光に照らされた車内に、再びアナウンスの音が響きます。


「ご乗車、ありがとうございます。

 ただいまより、車内販売が参ります。御用の方は遠慮なくお声掛けくださいませ」


どうやら、車内販売が来るようです。

那久

……!? 車内販売……?

しばらく待っていると、奥の車両から一人の人間と、一台のワゴンが現れました。

人間は顔をベールで隠しています。

どんな表情をしているのか、探索者たちには読み取ることが出来ません。

彼はワゴンを押しながら、ゆっくりと車内を進みます。


一歩、一歩。

ワゴンは段々と探索者たちの元に近づいてきます。

那久

「え、ドア開い……人間ッ!? おい、我妻!!!」

八雲

「え? なんですかぁ?」

那久

「聞いてなかったのか。車内販売で、人が……」

ワゴンが探索者たちの傍で止まりました。

顔の見えない人間は、それでも確かに探索者たちのことを見ているようでした。

彼は何も言いません。

きっと探索者たちが何も買わないのであれば、このまま別の車両へと向かうのでしょう。

八雲

「……おや……」

那久

な……

八雲

「え~っと……こんにちは? 人間の方ですか?」

那久

聞き方……いや、アンドロイドの可能性もあるか……

探索者たちは車内販売人に話しかけます。

話を聞いていた彼は、ゆっくりと自分の首元に手を当て、静かに首を振りました。

どうやら声が出せないようです。

この様子だと、簡単なことしか聞くことは出来ないでしょう。

八雲

「おや……話すことは出来ないようですね」

那久

「そ、そうか……というか、何が買えるんだ? これは……」

ワゴンの上にはクッキーやチョコレートなどのお菓子、オレンジジュースや珈琲などの飲み物に始まり、トランプやルービックキューブなどのちょっとした玩具なども乗っています。


またワゴンの二段目には、金魚鉢や習字道具、水着など変わった物も売っているようです。販売人に聞いてみれば、欲しいものが買えるかもしれません。

那久

「めっちゃいろいろある……」

八雲

「めっちゃいろいろありますね。水着って……外に出て泳げるってことですか?」

那久

「それは、さすがにどうなんだ……。どうする、何か買うか?」

八雲

「俺は、特には……那久さんは何か買いますか?」

那久

「む……まだ先が長いようなら、飲み物くらいは欲しいが……じゃあ、オレンジジュースと……クッキーも貰おうか……? 我妻も、飲み物くらいは買っておいたらどうだ?」

八雲

「ああ、そうですね……お茶とかあるかな……」

CCB<=60 幸運 (1D100<=60) > 17 > 成功

八雲

「あった……じゃあ、この緑茶を」

那久

「おやつとかはいいのか?」

八雲

「いいです。黄泉戸喫(よもつへぐい)とか、怖いですし」

那久

「よもつへぐい……?」

CCB<=50 知識 (1D100<=50) > 8 > スペシャル

那久

「異界の食べ物を食べてはいけない……とかいうのだったか? あったな、そんなもの……って、どうして先に言ってくれなかったんだ!?」

八雲

「あはは。厳密には、黄泉の国のものを食べると黄泉の国の住民になってしまうというものですね」

那久

「そうなのか……黄泉の国って、死後の国だよな? ここは黄泉の国ではないのではないか?」

八雲

「わかりませんよ。俺たち二人とも、何かしらの理由で死にかけているのかもしれません」

那久

「ええ!? そんなわけ……俺はたしかに自分の部屋に居たんだぞ!!」

八雲

「自分の部屋が安全だという保証がどこにあるんです?」

那久

「それは……そうかもしれないが……。じゃあ、このクッキーは…………」

八雲

「ふ……すみません、ちょっといじわるでしたね。たぶん、大丈夫だと思いますよ」

那久

「そうなのか? でも……」

八雲

「悪意のあるものであれば、こうやってわざわざ買わせたりはしないと思いますよ。勝手に目の前に出して置いて、無理やり食べるように仕向けるんじゃないでしょうか」

那久

「そうかもしれないが……そうやって油断させるものだとしたら?」

八雲

「そこまで考えたらきりが無いですね。まあ、不安ならお土産として持ち帰って、帰ってから食べたらいいのではないでしょうか。それなら、帰れなくなるなんてこともありません」

那久

「む……じゃあ、そうさせてもらおう……」

探索者たちが用事を済ますと、販売人はまたゆっくりと歩き出します。


ガラガラとワゴンを押す音が段々と遠くなっていき、やがて扉の向こうへと消えていきました。辺りにはまた電車の走行音だけが響き渡ります。

那久

「…………」販売人の後を追って隣の車両に続く扉を見に行く。

販売人が通った直後だというのに、隣の車両へと続く扉は再び固く閉ざされています。開けることは出来ないようです。

那久

「う……やはりダメか……」

八雲

「あんまり立つと危ないですよ~」

那久

「わかっている!」

ふと窓の外を見ると、外の風景は大きく変わっていました。


周囲は海ではなくなり、色とりどりの珊瑚礁は鮮やかな生花へと変わっています。

気が付けば、周囲は花畑になっていたようです。


焼けるような夕日の中、懸命に背伸びをした花々が、風に揺られて踊っています。


赤、青、黄、緑。


様々な色の花が、まるで歌うように咲き誇っていました。

花畑はどこまでも、ずっとどこまでも続いています。

八雲

んっ……

那久

「あ、また景色が……。って、大丈夫か? 夕日が目に……」

八雲

「ええ……問題ありませんよ。今度は花畑ですね」

那久

「そうだな。すごいな……」

八雲

「ここは現し世では無さそうですが……現し世にも、このような場所があるのでしょうね」

那久

「うつしよ……現実世界ってことか。まあ、無いことはないだろうな。日本にあるかどうかはわからないが……」

八雲

「日本は平地が少ないですからねぇ。旅行には興味がありませんでしたが……このような美しい景色が見られるなら、一度くらいは行ってみてもいいですね」

那久

「今の光景じゃ満足できないか?」

八雲

「そうですね、今は窓越しですから……花は、香りも含めて楽しむものですよ?」

那久

「む……そういうものか……?」

探索者たちがくつろいでいると、

突然、窓の外が暗くなりました。

那久

「!?」

八雲

「あ……」

どうやら電車がトンネルの中に入ったようです。

ゴウゴウと、走行音がトンネル内に反響をして、大きな音が響きます。


そっと窓の方に目を向けると、真っ暗闇を背景に、窓が鏡のように探索者たちの姿を映し出します。


ガタン、ゴトン。

電車は暗闇の中を走り続けます。

八雲

「……トンネルですか」

那久

「ああ、びっくりした……ただのトンネルか」

八雲

「ただの、っていうのもなんだかおかしいですけどね」

那久

「それはそうだな」

しかし、その走行音が段々とゆっくりになっていきます。

その直後、大きなブレーキ音の直後にガタンという音がして、身体が傾きます。それと同時に、車内の照明が一気に暗くなりました。


顔を上げると、走行音も心地良い揺れも止まっています。どうやら、運転が止まってしまったようです。


墨を溶かしたような闇の中、車内の非常灯だけがぼんやりと探索者たちを照らします。

那久

「っ……。……おい、止まってしまったぞ」

八雲

「ええ……どうしたんでしょうか」

その時、





こつん、と





音がしました。



聞き間違いかと思うほど小さな音。しかし、その音は確かに窓の方からしました。


窓の向こうから、聞こえました。

八雲

ん……?

窓の向こうに目を向けます。




こつん。




再び、窓が叩かれます。




こつん、こつん。




静まり返った車内で、か細いノックの音だけが嫌に大きく響いていました。

探索者たちは思わず耳を傾けます。




その時、

那久

「……」思わず窓から距離を取る。






「あけて」






声が、しました。



「あけて」



それは確かに、見知った人の声でした。

きみの、あなたの、大切な人の声。


こんなところにいるはずがないのに、こんなことをするはずがないのに。

……目の前にいる相手と、同じ声が聞こえているはずがないのに。


冷静な頭はそう考えるのに、二人は「その声が自分にとって身近な人の声である」と、当然のことのように理解をしていました。


窓の外に、あの人がいる。

暗闇の中に独りぼっちで、あの人がいる。





窓を、開けますか?

那久

「……み、ぞれ?」

八雲

「……俺には景山さんの声が聞こえています」

那久

「だ、誰だそれは」

八雲

「俺の相棒です。今重要なのは、俺とあなたとで違う声が聞こえているということでしょう」

那久

「それは、ああ……お前の言いたいことは、わかるが……」

八雲

「であれば、放っておきましょう。応えるべきではありませんよ」

那久

「わかる、わかるが……どうしてそんなに割り切れるんだ。相棒なんだろ?」

八雲

「ええ。でもこれは、景山さんではありません」

那久

「だから、どうしてそう言い切れるんだ。俺にはみぞれの声にしか聞こえない。もし本当に相棒だったら……無視したらどうなってしまうのか、考えたりしないのか?」

八雲

「……じゃあ、開けますか?」

那久

「だから俺はそういう話をしているんじゃ…………いや、すまん、これではただの八つ当たりだな。俺はお前の態度が気に入らなかったんだ……相棒に対して、どうしてそんなに冷たくいられるんだ、と……」

八雲

「……そうですね。冷たいように見えましたか」

那久

「ああ……俺からは、そう見えた……」

八雲

「……」

那久

「……なあ」

八雲

「俺だって開けたいですよ」

那久

「えっ」

八雲

「でもね……景山さんである筈が無いんです。もし景山さんが危険な目に遭っていたとして……彼なら、自分ひとりの力で解決しようとするでしょう。俺なんかに……助けを求めたりは、しない」

那久

「…………お前、それは……」

八雲

「開けない、でいいですね?」

那久

「お前、お前は……」

こつん。


こつん。


こつん。





音は響いて、それでも探索者たちが窓を開けないと分かると、音は鳴らなくなりました。周囲には再び静寂が戻ります。


窓の外には誰がいたのでしょうか。

窓の外には何がいたのでしょうか。


それは、今の探索者たちには知り得ないことです。


ガタン、バタン。


突然、電車が動き出します。

直後、車内の照明も明るくなりました。


再び車内にアナウンスが響きます。


「お客様にご連絡いたします。

 ただいま車内の点検を行っていたため、

 一時的に列車の運転を見合わせておりました。

 現在は通常通り運行しております。

 ご迷惑をおかけいたします」


アナウンスはそれっきり静かになってしまいました。


窓の外では、トンネルの明かりが流れ星のように流れていきます。




あの音は、声は、もうどこからもしません。電車の走行音がトンネルに反響する音だけが響きます。

八雲

「……」

那久

「…………」

探索者たちは、ふと一冊の本に気が付きます。どうやら急発進をした拍子に、上の荷物棚から落ちてきたものであるようです。

八雲

「本が落ちていますね」

那久

「お前……」

八雲

「見てみましょうか」

地面に落ちたその本は、どうやら小説のようです。

タイトルは、『押絵と旅する男』。


表紙には江戸川乱歩著、と記載があります。


探索者たちは本の内容を知っているでしょうか。

八雲

CCB<=105 知識 (1D100<=105) > 22 > 成功

那久

CCB<=80 図書館 (1D100<=80) > 34 > 成功

探索者は元からこの本について知っていたのでしょうか。

それとも、今ざっと中身を読んで内容を把握したのかもしれません。



『押絵と旅する男』は、魚津(うおづ)へ蜃気楼を見に行った男が、その帰りの汽車で一枚の押絵を持った紳士と出会う話です。

押絵には年老いた老人と若い女性が描かれていました。

その絵があまりに「生きている」ようで、気になった男が紳士に話を聞くと、紳士は身の上話を始めます。


紳士には兄が居ました。

塞ぎがちになった兄が毎日どこかへと向かうので、気になった弟は兄の後を追いました。すると兄は双眼鏡を覗いて、遠くを眺めていました。兄に話を聞くと、どうやら兄は片思いの女性を毎日ここから眺めていたと言います。


二人が女性の場所に行ってみると、そこにあったのは一枚の押絵でした。

兄は押絵に描かれた女性に恋をしていたのです。

兄は閃いたように「その双眼鏡を逆に持って自分を見てくれ」と弟に頼みました。

双眼鏡を逆から覗いて兄を見ると、兄は消えてしまいます。小さくなった兄は、気が付けば押絵の中に入っており、女性と共に仲睦まじく並んでいました。


紳士は兄と女性が退屈をしないように、押絵を持って旅をしているのだと。

そう主人公に告げる物語です。


探索者たちは、本をぺらぺらと捲ります。

頁を捲る音。電車の走行音が心地良く響きます。



頁を捲っていた探索者たちは、ある違和感に気が付きます。

解説者あとがきが書いてあるページに、手書きで文字が書いてあります。


「男は、全てを捨ててでも女の傍にいることを選んだ」


「わたしは、二度と帰れないと分かっていて、絶えず流れ続ける楽園に留まることを選んだ」


「君は、切符を持っている」

「貴方は、切符を持っている」

「君は、何処に行くんだい?」

「貴方は、何処に帰るんだい?」


角ばった綺麗な文字。

誰かに伝えるような言葉。

誰かに訴えるような言葉。


探索者たちは顔を見合わせました。

この言葉は、誰に届けようとしている言葉なのでしょうか。


その時、かたり、と物音がしました。

音は椅子に置かれた風呂敷から鳴ったようです。


探索者は『押絵と旅する男』をそっと傍らに置きながら視線を向けます。


探索者たちは風呂敷に包まれていた押絵を見ます。

しかし、押絵は押絵です。

今にも動き出しそうなほどにリアルですが、勝手に動き出すことなどありません。



押絵の中で男は笑っていました。

先程までは、無表情だったはずなのに。

まるで、三人での旅路を喜ぶように。

八雲

1D100<=81 正気度ロール (1D100<=81) > 15 > 成功 減少なし

那久

1D100<=62 正気度ロール (1D100<=62) > 61 > 成功 減少なし

八雲

「あ、ほら……やっぱり笑ってますよ」

那久

「いや、やっぱりって……さっきまではずっと無表情だっただろ」

八雲

「そうでしたっけ?」

那久

「お前……」

よく見ると、押絵の中の男は手に切符を持っていました。小さな切符。だけど、確かに文字が読めます。



「世界に見捨てられた、

       何よりも綺麗な場所」



二人を乗せた電車は、もうじきトンネルを抜けるようです。


ふと、周囲の音が小さくなります。

トンネルを抜けて、反響していた走行音が静かになりました。

二人は窓の外を見ます。

窓の外では、満開の星が二人のことを見下ろしていました。二人の行く末を照らすように、見守るように。


無数の星々が、墨を溶かしたような真っ黒の中で、点々と輝いています。


その時、再びアナウンスが流れだします。


「ご乗車、ありがとうございます。

 もうじき、乗換駅に到着いたします。

 車掌が切符を拝見したします。

 お手元に行先が書かれた切符をご用意してお待ちください。


 示した先が、貴方様の帰る場所。

 貴方様の、大切な居場所。

 どうか、皆さまなりの答えをお見せください」



アナウンスはそれっきり静かになってしまいます。

もうじき、駅に着くそうです。


しかし、二人は行先の書かれた切符を持っていません。一体どうすれば良いのでしょうか。


探索者たちは切符を持っています。

行き先の書かれていない小さな切符。

行き先が書かれていないのに、この切符を渡しても良いのでしょうか。


二人はふと、風呂敷の隣に目を留めます。

風呂敷の隣、椅子の上。

そこには万年筆とメモが置いてあります。


この万年筆で切符に行先を書くことが出来る。

そんな子供じみた閃きに、二人は気が付けば万年筆を握っていました。


この電車は、何処に向かうのでしょうか。

何処へ帰るのでしょうか。


それはきっと、「きみ」と「あなた」で違うのでしょう。

だって、「きみ」と「あなた」は別の人なのだから。

別の人生を歩んでいるのだから。


今から書くのは、この電車が向かう場所。

それはきっと、帰る場所。


明るいかもしれないし。

暖かいかもしれないし。

暗いかもしれないし。

苦しいかもしれないし。

帰りたいと願うかも。

帰りたくないと願うかも。


それでも、今から書くのは、きみが、あなたが帰る場所。

それぞれが、いるべき場所。


さぁ、手に持った万年筆で描いてみせて。

「きみ」の、「あなた」の居場所を書いてみせて。

那久

「……」ちょっと迷ってる。

八雲

「……」さらさらっと『米須署』って書く。

那久

「……お前それ……警察署の名前か?」

八雲

「そうですね。俺の帰る場所はここなので」

那久

「家とか最寄り駅とかじゃないのか……」

八雲

「早く書かないと、駅についてしまいますよ」

那久

「わかっている! ええっと……」散々迷って『警視庁』って書く。

八雲

「同じじゃないですかぁ」

那久

「決められなかったんだ! その、他にも色々あったけど……これが一番確実だと思って……」

八雲

「本部勤めなんですね。お偉いさんだ」

那久

「そうだぞ。エリート中のエリートだ」

切符には何と書いたのでしょうか。

それとも、何も書かなかった?

書く前に破り捨ててしまったのかもしれません。


それでも、隣の車両に続く扉が開いて、奥から車掌が現れます。車掌は帽子を目深に被っているため、表情を窺い見ることは出来ません。


そんな車掌は、二人の前で会釈をしました。



「切符を拝見いたします」



アナウンスと同じ声が、探索者に告げられます。

八雲

はい」すっと切符を渡す。

那久

「……」恐る恐る切符を渡す。

探索者たちが切符を渡すと、車掌は確かにそれを受け取ります。車掌は目深に被った帽子の下、確かに微笑みました。



「これがお二人の行く末なのですね。

 それでも、ここは通過点。

 すぐ近くにある路線が、もしくは交わらないはずの路線が混ざり合った乗換駅。


 きっとここからお二人は新しい場所に向かうのでしょう。

 そうやってまた変わっていく。

 それでもどうか、たまにはこの見捨てられた狭間のことを思い出してください。


 これは少しの息抜きと、わたしのちょっとした遊び心です」



車掌は探索者たちに切符を返してから、帽子を取って会釈をしました。


風呂敷を取った探索者たちなら気が付くことが出来るでしょう。その顔は、押絵に描かれた男性によく似ていました。

八雲

おや……まじまじと顔を見ている。

那久

「……」びっくりしてる。

「もうじき、この電車は駅に着きます。

 折角のご縁です。最後に少しお二人でお話をしてみてはいかがでしょうか?」


車掌はそう告げて、隣の車両へと移っていきました。

車両内には、探索者二人のみが取り残されます。


これで、最後です。

この旅は終わりです。


また会えるかもしれないし、もう二度と会えないかもしれない。

そんな二人は、この旅の終わりにどんな会話をするのでしょうか。

那久

「……我妻」

八雲

「なんでしょう?」

那久

「お前はもう少し、相棒と話をした方がいい」

八雲

「おや……ふふふ、何を言われるのかと思ったら。あなたに心配されるようなことはありませんよ」

那久

「馬鹿言え。さっきのお前、普通じゃなかったぞ。あんな……相棒が助けを求めてくる筈が無い、だなんて……」

八雲

「普通じゃない、ですか……何が普通かは、人それぞれだと思いますけど」

那久

「それでも……助け合うのが相棒というものだろう? それが出来ないのは異常だって言っているんだ」

八雲

「ああ、異常とまで言われてしまいました……そうですかぁ、そちらはさぞや素晴らしい相棒関係を築けているんでしょうねぇ」

那久

「おい!!! 俺は真面目に……我妻ッ!!!」

八雲

「……」

那久

「俺は真面目に心配しているんだ。今のままだと良くない」

八雲

「俺たちの何を知ってるっていうんです?」

那久

「何も知らないさ。知らなくても、それでもおかしいって思った。だからこうやって言ってるんだ。わかってくれないか?」

八雲

CCB<=89 心理学 (1D100<=89) > 59 > 成功

八雲

「……すごいですねぇ……」

那久

「な……なんだ」

八雲

「負い目があるんですね。過去に出来なかったことを、今やり直そうとしているわけですか」

那久

「な……」

八雲

「俺とあなたは、本来交わることの無かった存在です。このような泡沫と戯れる余裕があるのなら、ご自身の現し世を憂いては如何でしょうか?」

那久

「……現実でも精一杯やっている。今、俺の目の前に居るのは、お前だ」

八雲

「ええ、そうですね……もうすぐ居なくなるわけですが」

那久

「何がそんなに不満なんだ? 俺が何の事情も知らないことか? それなら、その事情とやらを教えてくれ」

八雲

「………………あのですね」

那久

「ああ」

八雲

「俺は今、とても幸せなんですよ」

那久

「……そうなのか」

八雲

「ええ。ですから、今のままで……何も、変える必要なんて無いんです」

那久

「……でも……」

八雲

「あなたには、あなたの理想の形があるのでしょうね。でも、俺はそうである必要はありません」

那久

「でも、お前は……随分と卑屈なように見えた。俺なんか、って……それでも、幸せなものなのか?」

八雲

「ええ、まあ……そうですね。歳を取ると、どうにもならないことのひとつやふたつ、出てきますから……ある程度の諦めは、ついてしまうんですよ」

那久

「どうにもならないこと?」

八雲

「身体がうまく動かなくなってきたりとか……ですね。景山さんは、俺よりも随分と若い方ですから……年寄りを気遣うのは、当然のことでしょう?」

那久

「……」

八雲

「どうですか。あなたなら、こんなガタが来た老人を頼りたいと思いますか?」

那久

「わ、わからない……俺は、みぞれしか相棒が居たことが無いから……。だけど、相手が頼ってほしいと思っているのなら、相手が出来る範囲で頼りたいとは思う」

八雲

出来る範囲で……そうですね。全く頼りにされていないわけではないんですよ? 知識の量も、経験の量も、俺の方が圧倒的に上ですからね

那久

だが、あの時お前は、相棒が自分に助けを求める筈が無いと言った。助けになれることがあるのなら、どうしてそんな風に思うんだ?

八雲

……聞きたいですか、そんなに

那久

無理にとは言わない。俺はお前を傷つけたいわけじゃない、ただ心配しているんだ

八雲

じゃあ、嫌です♪

那久

……そうか……それなら聞かないでおくが……。ただ、これだけは言っておく。思うところがあるのなら、その気持ちはきちんと伝えるべきだ。それで取り合ってくれないような相手なら、そもそも相棒には向いていない。……わかってくれるか?

八雲

「……はぁい。わかりましたぁ

那久

……本当に大丈夫か……?

ガタン、ゴトン。


電車は揺れます。

心地良い揺れは、まるでゆりかごのようです。


ガタン、ゴトン。


段々と視界が歪みます。

意識が霧に包まれるような眠気の中で、探索者たちは確かに声を聞きました。


「ご乗車、ありがとうございます。

 次は、――――」

探索者は目覚ましの音で目が覚めます。

気が付けば、自室のベッドの上。

それでも、電車が揺れる感覚が、未だに身体に残っています。


探索者は朝の準備をするために立ち上がります。


その時、探索者は自分の手の中に何かがあることに気が付きます。軽く握っていた手を開くと、中には一枚の切符がありました。

探索者が書き込んだ、あるいは何も書き込まなかった。探索者が帰るべき場所を指し示すもの。



探索者はこれからどうするのでしょうか。

誰かに会いに行くのか。

何処かに向かうのか。

いつも通りの日常を過ごすのかもしれません。

もしくは、ちょっとだけ特別な日になるのかも。



最後にきみの、あなたの描写をして、この物語を終わりにしましょう。

八雲

「ん……」不思議な夢だったなぁ……と思いつつ、手元の切符に気付いて、ふふってなる。

那久

んん……? 夢……じゃ、なさそうだな……」むっとした顔で目を覚まして起き上がる。

八雲

「ここ、米須署じゃないですよ~……」

那久

「ああ……あいつ、ちゃんと話してくれるといいんだが……。……米須署、だったか……?」と、スマホなりなんなりで調べる。

八雲

自分の足で向かうしか無いですか……と、出勤の準備をし始める。

那久

「……? たしかに、この文字で合ってる筈なんだが……。……無い……?」首を傾げ傾げしつつ、父親の呼ぶ声が聞こえてきて、そちらの方へと向かっていく。

通過点、

きみの、あなたの帰る場所

そして、ここから未来に向かう場所


長旅、お疲れさまでした。

本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」